「な、何で隣でちゃっかり見てるんですか!!早く出てって下さい!」

暗い部屋に置かれたテレビの画面には血まみれの女が必死に殺人鬼から逃げ回るシーンが映し出されている。
いつもの発禁物とは違い比較的優しめ(とは言えかなりグロテスク)のビデオらしい。
「いいじゃねーかよ、減るもんじゃねーし」
「あなたホラーは好きじゃないって言ってたじゃないですか」
「グロいのが見たい時もあんの」
「…じゃあ貸しますから出って下さいよ」
「…なぁ、そんなに俺がいちゃいけない訳でもあんの?」
スナコはテレビ画面をちらと見て更に恭平を急かし始めた。殺人鬼は映っていない、別のシーンに移ったようだ。
「今すぐにっ」
「お前っ殴るこたねーだろ!殴るこた!」

必死の攻防戦を繰り広げているとテレビから艶めかしい喘ぎ声が聞こえてきた。思わず二人は固まり画面を凝視する。裸体のまま腰をふる若いカップル。

アン、アン、ジャック!いっちゃうわ俺もだよジェシイ…

「だ…だからいったのに」「これ普通にアダルトビデオだろ…」
気まずい雰囲気が流れ乱闘の際に恭平はスナコを組敷いていたことに気がついた。
「…」
「は、早くどいて!」

はずされるであろう手首の枷が逆にキツくなっている。画面の男女の喘ぎ声は益々興じてきた。
「…!は、離して!」
首元に生暖かい吐息を感じとうとう事態は差し迫った状況下にあると認識する。「あ…!…ブチますよ!」

「…バーカ、本気で追い出さなかったおめぇが悪いんだかんな」
至近距離で囁かれ一瞬不意にそうだったのかも知れないと納得してしまった。

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