最近、スナコちゃん(と恭平)の雰囲気が変わった、と乃依は密かに思っている。
武長に一度言ってみたら「気のせいじゃないの?」と一刀両断されたが。
どうして男の子ってこういうのに疎いんだろう、と乃依は頬を膨らませて考える。
武長が色恋沙汰に人一倍疎いから、という選択肢は彼女にはないらしい。
でも、スナコちゃん明るくなったしきれいになった、それが乃依には嬉しい。
一度二人をくっつけようと奔走した時はあまりの恋愛音痴っぷりに悔し涙を流したけれど、それはそれ。
やっぱり二人とも意識しあってたのね、とほくそ笑み、隣で小難しい本を読む恋人に目を遣った。
はぁ〜、読書姿もかっこいぃ…、じゃなくて!
一人百面相しつつ、乃依はぶんぶんと首を振る。
武長を好きになって、武長も自分を好きだと言ってくれて。それは本当に舞い上がるほど幸せで。
でも、長い付き合いの割に二人の仲はキス以上の進展が無い。
あまり気にしたことが無かったけど、最近友達が彼氏との話をしているのを小耳に挟んでから、乃依はずっと胸がもやもやしている。
“あたしって、オンナの魅力ないのかなぁ”
もう高校生だし、絆を深めたカップルが何をするか知らないわけじゃない。
実際に友達は彼氏との『初めて』を恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに話していた。
“恐かったけど、大好きだからひとつになりたいって思ったし、そうなれて嬉しかった”
頬を染め、照れながらそう呟いた彼女は愛されている、という自信に満ちていて。
「はぁ…」
武長は、考えたことないのだろうか、そういう事。
考えかけて少し落ち込んで、乃依はそれ以上の深入りをやめた。

もともとうじうじ悩むより行動!の乃依である、じゃあ武長を自分の魅力でメロメロに☆と言う結論に行き着いた。
寝る間を惜しんでプランを練り、その日はやってきた。

とある日曜日。あれやこれやと下宿人達に予定を押しつけて追い払い、今日は武長とふたりっきりだ。
乃依はここぞとばかりに磨き上げた体のラインを強調する、胸元を広く開けたとっておきのワンピに身を包み中原邸を訪れた。
ピンポーン…
呼び鈴を押し、出てきた武長の反応を思い浮べる。
“乃依…今日はいつも以上に綺麗だ、ときめきが止まらないよ”
「なぁんて言われちゃったらどぉしよう〜♪」いやぁん、と体をくねらせ暴走していると、かちりと乾いた音を立てて扉が開いた。
「乃依っち、いらっしゃ…」くるり、と振りかえり武長を見る。

…あれ?予想では満面の笑みで照れながら出迎えてくれるはずなのに。

「武長くん?」
目の前の愛しい人は、表情を無くし固まっていた。
そのまま乱暴に手首を掴まれ強引に部屋まで連れていかれる。
“あれ?あれれっ?なんか…”
不機嫌?
部屋に入ると、椅子に掛かっていたシャツを肩に掛けられた。
「その格好でここまで来たの?」
声がいつもより硬い。
何でそんな態度を取られるのか分からなくて乃依は困惑した。
「うん…いけなかった、かな」
さっきまであんなに弾んでいた気持ちが、穴のあいた風船のようにしぼんでいく。
「あのね、乃依っち、女の子がそんなはしたない格好するもんじゃない」
投げられた言葉に乃依は泣きそうになった。
きれいだよって、女らしいねってどきどきしてもらいたかっただけなのに。
まるで逆効果じゃないの。
あまりにショックで、乃依は武長がいつもよりそわそわと所在なく目線を泳がせていたことにまったく気付いていなかった。
「…帰る」
このまま一緒にいたら情けなくて悲しくて泣いてしまいそうで、乃依は武長に背を向けた。
浮かれてた自分がばかみたい。はしたないって、きっと軽蔑された。
あぁ、もう泣くな乃依。

武長は弱り切っていた。
乃依は女なのだ、それはもう大輪の花のように艶やかな。
それを目の前に見せ付けられ、同時にここへ来る迄数多くの男の視線を奪ってきたのだろう事が易々と想像がつき。
早い話が欲情に駆られ見知らぬ男に嫉妬したのだ。
とにかく自分以外の誰の目にも触れさせたくなくて部屋に引き入れ、
かと言って直視も出来ず自分のシャツを羽織らせた。
これでやっと落ち着いたところで、武長は無防備な乃依に苛立ちを覚え、ついきつい言葉を投げてしまい。
しまったと思った時にはもう遅かったのだった。
「…帰る」
耳に飛び込んできた言葉が弱々しく震えていて、武長は自分の失言を悔いた。
「乃依っち、待って」
足早に出ていこうとする恋人の華奢な腕をつかみ無理矢理向き合わせる。
ふわりと薫る甘い匂いとその腕の柔らかさに頭の芯がくらりと痺れた。
「ごめん、言いすぎた」
理性を総動員して発した言葉は緊張のためか硬く響いて、乃依がびくりと体を震わせた。
怯えさせてしまった、と自己嫌悪しながら空いた手を乃依の顔に添え俯いた彼女を上向かせる。
「…っ」見開いた両目から、大粒の涙が転がり落ちた。

あぁ、困っている。考えなしの自分の所為で彼を困らせている。
そう思いつつも荒れ狂う感情を止める事が出来ない。

「だって、武長君こんなあたしいやでしょ?!」
離して、と身を捩るが武長の手は自分の腕をしっかと握って放さない。
「あたしっ、ひっく、武長くんにっ、きれいだねって言われたくてっ、っく、どきどきしてもらいたくてっっ、
でもっ、ひっ、逆効果だったみたいだしっっ、だからっ、」
横隔膜が痙攣してうまく喋れない。それが更にイライラさせて、言葉が更に胸に詰まる。
「あたしっ、ひっくっ、ちゃんとっ、うっ、武長君にっ、女としてっ、見てもらいた」
乃依の言葉は最後まで紡がれなかった。
武長が、痛い位にきつく乃依の体を抱き締めたからだ。
「馬鹿だなぁ、乃依っち」
馬鹿と言われて一瞬むっとしたが、耳元で響いた武長の声が熱くて押し黙る。

「俺は」
喉の奥がからからに乾いている。
そう言えば乃依を部屋に招いてからお茶の一杯も出していない、と武長はぼんやり考えながら次の言葉を探した。
“女として、どきどきしてもらいたかった”どきどきしない訳が無いじゃないか。
さっきだって玄関で微笑む乃依を見て、全く平静でいられなかった。
自分が欲深い獣のようで、乃依を壊してしまいそうでずっと我慢してきたのに。
なのに腕の中の愛しい相手はそんな自分のじくじくした感情を飛び越えてくるのだ。
武長は、抑えつけてきた感情が綻びていくのを感じた。

「乃依」
武長の真剣な声音に、乃依は体を一瞬硬くした。
今、乃依、って呼んだ… 
「俺はね、乃依が女らしくないなんて思った事無いよ」
静かに武長の声が染み込んでくる。
「でも、だって今日も呆れてたし…」はしたない、という単語は思いの外乃依を傷つけた。
「呆れたんじゃなくて、あれは」一瞬言い淀む。
乃依はいつしか泣き止んで、頭上から降る武長の言葉に耳を澄ませた。
しばしの沈黙の後、ぽつりと。
「…あれは、乃依が綺麗すぎて、正直すごい動揺したから」 
あぁ、言ってしまった。
いざ言葉にするとより鮮明に乃依の艶姿が駆け巡り、
腕の中の乃依の細いうなじだとか押し付けられた二つのまろみだとか、
折れそうに細い腰だとかの意識しないようにしていた柔らかさで理性の綻びが広がる。
「綺麗で、色っぼくてどうしたら良いか分からなかった。正直、今も乃依にすごいどきどきしてる」
もう限界だ。
武長は角度を変えて乃依をかき抱き、深く口付けた。
舌を入れて乃依のそれに絡め、きつく吸い上げ、唇を甘く噛む。
酸素を求めてか逃げる唇を執拗に追い掛け唾液を送り込み、綺麗に並んだ歯列をなぞる。

乃依は一瞬体を強ばらせたが、すぐにしがみついてきた。
こんな噛み付くようなキス、今までしなかったからさぞやびっくりしているだろうに、ぎこちなく舌を伸ばしてくるのがたまらなく愛おしい。
くたりと脱力した腰を支え、やっと唇を解放してやる。浅く肩を上下させ、少しぼうっとしている乃依の額に軽くキスを落とし、耳元に欲情を注いだ。

「乃依が欲しい」
耳朶に滑り込んできた武長の台詞に乃依は身を竦ませた。
自分の望んだことなのに、今迄唇を合わせていた武長はまるで知らない男性みたいで少しコワイと思った。
霞の掛かった頭をゆるく動かし視線を交わすと、見たことの無いような熱い眼差しを向ける武長がいる。
やっぱり少し恐い。なのに体の奥がじわじわと熱を帯びてきて視線を外せない。
どうしちゃったんだろう、あたし。
したことの無い激しいキスをして、大好きな優しい彼はまるで知らない人みたいで。
なのにもっと知りたい、もっとくっついて、もっと抱きしめ合って、ひとつになりたくて
−あぁ、これがあの子の言っていたことなのか、と乃依は薄ら理解した。
「嫌だったらしないから、」武長の擦れた声に乃依はいやいやと首を振った。
「あたしも、…武長くんとしたい、武長くんが欲しい」

言い終わると同時にまた唇を塞がれた。

体が熱い。触れ合った唇から熱を注ぎ込まれて灯を点けられているようで、苦しくて乃依は喘いだ。
「乃依」少し緊張した面持ちで、武長が優しくするから、と囁いた。
何だかドラマみたい、と乃依は少し笑った。

−熱い。さっきとは比べものにならないくらい、全身が火照っている。
壊れ物を扱うようにゆっくりと武長が乃依に触れて、至る所にキスの雨を降らす。
武長が触れる全ての点・面からどんどん体温が上がっていくようで、
羞恥と快感で何度も波が押し寄せ、乃依は武長の手をきつく握り締めた。

「きれいだ、乃依」
うわごとのように武長は何度も繰り返しながら愛撫した。
汗ばんだ肢体からは抱き締めた時よりも数段濃厚さを増した甘い薫りが立ち上り、理性を溶かしていく。
だが、自分も乃依も初めてだ。特に処女は体の負担が大きく苦痛を伴うと聞いた。
以前蘭丸に言われた事を思い出し、武長は必死でなけなしの理性を掻き集めながら、ぎこちなくも丁寧に乃依を解していく。
まろい胸を捏ね、ぴんと立ち上がった桃色を摘み、舌で転がしきつく吸う。
甘く歯を立ててやると乃依は切なげな吐息を洩らし体を捩る。
存分に乳房を味わい、締まった腹からへそを舌で辿り、柔らかな茂みをそっと広げる。
恥ずかしいのか閉じようとする脚を割り、溢れる蜜をゆるりと啜った。

「あぁぁっ!」駆け抜ける刺激に乃依は悲鳴を洩らした。
武長の顔が自分の脚の付け根にいる、それだけで羞恥に身が焼かれるようなのに。
自分でも見たことの無い場所を武長に晒している事が堪らない。
指とは違う温かな感触に、そこを舐められていると気付き、その度に襲い来る刺激と恥ずかしさに知らず涙が零れる。

「やっ、だめぇ」汚いからやめてと哀願するも武長は貪るのを止めない。
「乃依は全部綺麗だよ、ここも」やっと顔を上げ武長は指で入り口をなぞった。
そこに触れられるたびに勝手に腰が浮き上がりひくひくと震えるのを止められない。
「あぁっ、やんっあっ」
しなやかな指が緩やかに潜り込んでくる。
腹の奥に奇妙な異物感を感じたのは一瞬のことで、乃依は更なる波に翻弄された。
「あっ、あぁあっ、は、やっ、やぁぁんっ!」
何かが体の奥から這い上ってきて、目の前がちかちかして、自分のものでないようないやらしい声を遠くに聞きながら、乃依は体を強ばらせ、一気に脱力した。
「あっ、あ、は、」短く何度も息を吐く。今体を駆け抜けたのはなんだったのか。
「気持ち良かった?」と優しく問い掛ける武長の声に我を取り戻し、あまりの恥ずかしさに顔を覆う。
だがすぐに腕をやんわり拘束され顔を向かされる。
自分だけ気持ち良くなってしまった恥ずかしさと申し訳なさに、乃依は目を伏せ、…固まった。
なぁに、あれ。視線の先には乃依の知らないグロテスクな物体…
あれ、武長君の“あれ”??
あまりの狂暴な大きさに一瞬血の気が引く。
あんな大きいもの、入るんだろうか。
うぅん、頑張るのよ乃依。そりゃ、最初は痛いって聞くけど、大好きな武長くんとひとつになりたいんだって、決めたんだもの。

どうやらまた百面相をしていたらしく、武長が苦笑した。
「乃依っち」
無理しなくていいよ、と頭をぽんぽん撫でてくれたけれど、何だか辛そうで乃依は大きく首を振った。
「だめっ、武長くんも気持ち良くなってほしいの、ひとつになるって決めたの、だから…」
我慢しないで。あと、乃依、ってさっきみたいに呼んで。
蚊の泣くような声でつぶやいて、武長の首にぎゅっと抱きつく。
「…わかった」なるべく気を付けるから、痛かったら俺の背中に爪立てて良いから。と乃依を抱き締め返し、
武長は痛い位に怒張している自身にゴムを被せた。

「ぃた…っ、うっあぁぁあっ」
めり、と引き裂かれる様な痛みに乃依は呻いた。
こんな痛み知らない。今すぐにでも止めたい位痛い。
でも、見上げた武長の顔もすごく苦しげで。

「乃依、力抜いて」
ゆっくり呼吸を整え、少しずつ少しずつ侵入していって。
乃依の顔が苦しげに歪む、が武長自身も余裕が無い。
「乃依、全部入った」
かなりの時間を掛けてやっと全体を収める頃には、二人とも汗だくになっていた。
しばらくそのまま静止していたが、乃依の表情がが少し和らいだのを確認し抽送を試みる。
「乃依、動いても良いかな」と控えめに尋ねると小さく頷いたから、なるべく負担を掛けない様にゆっくり抜き差しを行う。

つぷっ、ぬちゅ、くちゅ。控えめな水音に比例するように、乃依の表情から徐々に険しさが薄れてきて。
呻く声の中にも少しずつ甘さが混じり始め。
あ…やばい、もういきそう。
武長は限界が近づいているのを悟る。
早い気もして情けないが、あまり長引かせるのも乃依の体に障るだろう。
「乃依、乃依…っ」
きつく抱き締め合って腰の動きを速めていく。
「武、長ぁっっ…」
初めて呼び捨てで呼ばれたのとほぼ同時だろうか、よりきつく締め付けられて武長は果てた。

はしたないことしちゃったね、と乃依は武長の腕の中でつぶやき、頬摺りする。
「いやっ、だからほんとに失言でした。ゴメンなさい」
おろおろする武長が可愛い。
「武長くん」
もぞ、と武長の腕から這い出し乃依は恥ずかしそうに耳元で囁いた。
「これからは、ずっと乃依、って呼んでね」
直後真っ赤になって顔を埋める乃依に愛しさで胸が一杯になり、武長はキスの嵐で彼女に答えたのだった。

その後着替えの最中にシーツの血痕を発見し、
スナコに洗わせるわけにいかないと二人して青くなったり赤くなったりするのも、
蘭丸が武長にした助言?の内容も、ある意味お約束。

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